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2005.08.18

灰色の北壁

灰色の北壁真保裕一の最新作です。
といっても春先に出たので「最」は付かないかも。
なにしろ図書館で借りて読んでいるのでどうしても最新作は順番待ちになってしまいます。

真保作品で有名なのはもちろん「ホワイトアウト」。
以来10年ぶりの山岳を舞台にした作品です。私としては「待ってました!」だったのですが・・。
表題作の「灰色の北壁」をはじめ中編の全3作品が収録されています。
いずれも味わい深い作品でした。
特に表題作である「灰色の北壁」はよかった。
ヒマラヤの高度差3000mにも及ぶ未踏の北壁を単独で登頂したある天才クライマーのお話。
単独で登頂した時に必ず出てくる疑惑。「彼は本当に登ったのか?」
疑惑と糾弾の中でじっと沈黙を守り、そして逝ってしまった主人公。登頂時の「証拠」写真に隠された秘密。
山岳ミステリーというカテゴリーに入る作品なのでしょうが、根底には深い人間愛が描かれていて読後に感動がじわっと伝わってきました。

1作目の「黒部の羆」も良かったです。
富山県警山岳警備隊の献身的な救助活動をタテ糸に、人間のエゴ、自己中心の心象風景がヨコ糸に織り込まれているように感じました。
現在と過去が巧みに交錯していて、タイムパラドックスの趣向が施されています。「時間酔い」にはまってしまいましたが、読み終わってみれば何故かさわやかな印象に包まれるお話でした。

最後作の「雪の慰霊碑」もなかなか丁寧に描かれた作品でしたが、登場人物がやや多くそれぞれの人物像を描くにはややもの足りない感じがしました。
中編小説って紙面に限りがあるためにどうしても深く掘り下げるには限界があるのでしょうか。
それでも春山の縦走場面は臨場感があって楽しく読み進めることができました。

この3編の中では「灰色の北壁」が出色の作品だと感じました。
「神々の山嶺」(夢枕獏)と同様に読者にさまざまな想念を抱かせてくれる作品なので、もう少し長編になっても読み応えがあるはずだと思うのですが…。

灰色の北壁

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